こんにちは、真船きょうこです。
東京国立博物館にて、2021年6/22~9/12に開催された仏像展
特別展「国宝 聖林寺十一面観音 -三輪山信仰のみほとけ」
通称【聖林寺展】
どんな展覧会だったのかといいますと
見どころは大きく4つあり
歴史的瞬間!な展示でした
この記事を読んで頂くと
展示のポイントと開催意義がよくわかると思います。
漫画・イラスト入りでやさしく解説しますので仏像初心者の方もお気軽にお読みくださいね。
それでは見てゆきましょう。
見どころ4つを漫画で早わかり
記事の内容のダイジェストとなるルポ漫画です。(読み飛ばしOK)
ご興味のある方は、下のバーをクリックしてお読みください。
では詳しくご紹介しますね。
鑑賞ポイント
話題になった理由
聖林寺展は開催前から話題の展覧会でした。
なぜかというと、メインアクトでの奈良県桜井市、聖林寺の十一面観音菩薩立像がすごい!から。
ちょっと難しい事を言いますと(読み飛ばしOK)
・760年代に東大寺の造仏所で造られ願主は天武天皇の孫という説が有力
・明治30年の旧国宝制度で国宝指定、昭和26年の新制度でも第1回の国宝に
要は超ロイヤルな由緒があり100年以上前から国宝だったとても美しい仏像!仏像ファンに大大大人気の仏さまです。
展覧会の紹介では「日本彫刻の最高傑作」と謳われ、
その観音さまが初めて東京にお越しになるのが貴重ですごい!と話題になりました。
どうです?ちょっと行ってみたくなりませんか?
次は会場の様子をルポしながら見所をご紹介しますね。
いざ入場
展示があるのは本館。東博に入って正面に見える大きな建物です。
その本館に入るとすぐに会場です。
「特別5室」といって大きな一部屋ですので
スケールの大きな展示で魅力がわかりやすく、かつコンパクトにまとまっていて見やすく
初心者の方もとても楽しめると思います。
チケットを見せて入場すると、音声ガイド機のレンタルブースがあります。
さて会場入り口には展示の説明板が。
要約すると「観音さまは三輪山信仰の仏像」という事です。
①三輪山(奈良県桜井市)は麓の大神神社のご神体
②観音さまはかつて神社内に存在した大御輪寺に存在した
三輪山と大神神社は神聖なパワースポットとして有名なのでご存じかもしれませんね。
神社に仏像?と不思議に思う方もいらっしゃるでしょうか。
神社とお寺は江戸時代まではよくくっついていました。神仏習合といいます。
三輪山信仰を広~い特別5室に再現したのが今回の展覧会なのです。
それでは展示を見ていきましょう。
見どころ①ここだけの借景
会場に入ってすぐ目を引くのは、何といっても中央の
国宝 十一面観音菩薩立像(奈良時代 奈良・聖林寺)
観音さまの後ろには大神神社の大きな鳥居。三つの鳥居が連なる珍しい形で三ツ鳥居といいます。
鳥居の後ろには壁を覆いつくすほど大きな三輪山の写真。
観音さまはこの会場でしか再現できない借景を前に堂々と立っているのです。三輪山信仰の再現ですね。
神々しさに会場はくぎ付け!
正面、左右、お背中と360度見る事ができますからどうぞご対面を存分に味わって下さいね。
ここで観音さまの鑑賞ポイントをお伝えしましょう。
観音像の美しさを解剖
「日本彫刻の最高傑作」の美しさはどこから来るのか?
私なりに2つのポイントがあると考えました。
①「畏怖の中の慈悲」というギャップが見るものを引き付ける
②とことん追求された立ち姿の美しさ
①畏怖の中の慈悲
展覧会公式サイトに昭和の文人の評が三つ載っています
「それは菩薩の慈悲というよりは、神の威厳を感じさせた。」土門 拳『古寺巡礼』
確かに厳しいお顔をしています。
しかし絵に描いてみてわかったのですが、ヒビや金箔の剥れを書く前はもっと穏やかに見えるんです。
酸素や湿気・時の流れという「自然」が醸し出す風合いが、表情を威厳あるものに変えていると言っていいでしょう。
三輪山は古くから入山が厳しく制限されてきた神聖な山でした。
観音さまの表情はまさしく三輪山信仰を体現していると感じます。
一方でそもそも「観音菩薩」は優しく人々を救う慈悲のみほとけ。
本当は優しいのに怖いお顔をしていたら、ギャップにグッときちゃいませんか?
白洲正子の一文はそんな人間の心を表しているように感じます。
これが私の考える「畏怖の中の慈悲」です。
②とことん追求された立ち姿の美しさ
観音さまの立ち姿の美しさを見てみましょう。
正面から見るとメリハリがあります。
肩幅が広く胸は肉付き良く貼っており、視線を下げると腰はキュッとくびれていて、衣が何筋もの滝のように下へと流れてゆきます。
横から見ると全身がやや前に傾きお腹がせり出ていて、見る者に迫ってくる立体感を演出していることがわかります。
このメリハリと立体感、そして美しい衣の文様が深い感動をもたらします。
このように立ち姿をとことん追求できるのは木芯乾漆という技法を使っているからです。
大まかな形を木で造って芯にし→(木芯)
その上に漆と木くずを混ぜたペーストを塗り、形を整え固める→(乾漆)
詳しい説明パネルが会場にあるので、気になる方はご覧くださいね。
木芯乾漆像は奈良時代にさかんに造られましたが、平安時代以降は廃れて木彫がメジャーになってゆきます。
観音さまは技法モデルとしても大変貴重なのです。
見どころ②大神神社のお宝
観音像とのご対面のあとは会場全体をみてゆきましょう。
入口から向かって左側の壁には大神神社のお宝が展示されています。
イラスト右からご紹介しますね。
山ノ神遺跡出土品(古墳時代 東京国立博物館)
大神神社のすぐ近くにある山ノ神遺跡の出土品。
お酒造りの道具が祭祀用に小さく作られたものだと考えられるようです。
三輪山信仰は古くから酒造りと深い関わりがあり、
現在も大神神社から全国の酒蔵に「杉玉」が届けられています。
重要文化財 朱漆金銅装楯(鎌倉時代 奈良・大神神社)
高さ160cmほどの大きな楯。鎌倉時代の木の楯として貴重だそうです。
裏面の銘から奉納品だと考えられています。神社の奉納品で刀はよく見かけますが楯とは珍しいですね。武家の時代なんだなと感じます。
赤い漆や金箔がきれいに残っており、重要文化財指定されているのもうなずけます。
三輪山絵図(室町時代 奈良・大神神社)
高さ約約180cmの大きな絵図。室町時代の彩色が美しくよく残っています。
拝殿の奥に三ツ鳥居、その奥にご神体の三輪山を望む構造はこの時すでに出来ていたことがわかります。
観音さまがいた大御輪寺は当時「若宮」と呼ばれていたようです。
探してみると楽しいですよ。
8/3からは江戸時代の絵図に変わります。見比べてみたいものです。
見どころ③大御輪寺の仏像
観音さまと一緒に大御輪寺にまつられていた仏像が大集合。イラスト右から左へ解説しますね。
国宝 地蔵菩薩立像(平安時代 奈良・法隆寺)
普段は法隆寺の宝物館「大宝蔵院」にいらっしゃいます。
表情は威厳に満ちて衣の表現にキレがあり、平安初期の仏像の特徴をよく表しています。
地蔵菩薩とされますが神像(神道の神様の像)であったとする説も。今回の展示に際し興味深いところです。
頭から台座の上部まで一本の木で造られている「一木彫り」です。意識して見るとおもしろいですよ。
日光・月光菩薩立像(平安時代 奈良・正暦寺)
日光・月光菩薩とされますが、こちらも本来別の仏さまだったかもしれないそうです。
仏像を見分けるのに手のポーズ(印相)が重要なヒントとなりますが
手はまた取れやすい部位でもあります。二尊とも当初の手は取れてしまい後から補われています。
対の二尊ですが体つきや表情が少し違います。材木も日光はケヤキ、月光はヒノキとバラバラ。見比べると楽しいです。
大国主大神大神立像(平安時代 奈良・大神神社)
「因幡の白兎」で有名な日本古来の神様オオクニヌシのお像です。
一般的にはこんな姿で描かれますが
大御輪寺のお像は七福神の「大国さま」に似ています。
神仏習合の思想から大国主と大黒天(大国さま)は同体とされ、このようなお姿なのだとか。
平安時代の神像らしく近づきがたい神聖さがありつつ、高さ65cmと小ぶりで愛らしくも感じる魅力的なお像です。
以上、
こうして見ると「神社の中にガッツリ仏像があったんだな~」としみじみ感じます
展示ではこのように数尊ですが、聖林寺公式サイトによると
とのこと。もっともっとたくさんの仏像があったのですね。惜しい事です。
見どころ④歴史的瞬間
さて仏像を見終わると展示の出口。
そこにこんな表題のパネルがあります。
「紡ぐプロジェクト」
パネルを読んでから会場を振り返ると、また違った景色が見えてきます。
ここがこの展覧会のキモ、一番の感動ポイントだと思うのでご説明しますね。
まず前提として
明治時代、東京の新政府は
「天皇を中心とする国家神道を打ち立てよう」と、お寺と神社を明確に分けようとした。「神仏分離」政策という。
↓
神仏分離そのものは単なる方針だったが、拡大解釈した暴徒が暴れてしまう結果を招く。
僧を迫害し寺院や寺宝を焼き払う「廃仏毀釈」が起きてしまい、全国各地の貴重な仏像やお宝がたくさん失われた。
↓
大御輪寺のお宝は難を逃れるため散り散りになった。
過去にこのような悲劇があったのですね。
そして今回、大御輪寺のお宝は東京国立博物館に150年ぶりに集合したわけですが
開催には国の機関が大きくかかわっています。
それが「紡ぐプロジェクト」
官民(文化庁・宮内庁・読売新聞)共同で文化財などを守り公開する事業。この展覧会は紡ぐプロジェクトの催しなのです。
「紡ぐプロジェクト―皇室の至宝・国宝プロジェクト―」は、皇室ゆかりの優品や、国宝・重要文化財など古くから守り伝えられてきた日本の美を、広く国内外へ、さらに千年先の未来へ伝えることを目的に、文化庁、宮内庁と読売新聞が2018年11月から官民連携で取り組んでいるプロジェクトです。
文化財のデジタル保存や修理への助成、展覧会や公式サイトの運営といった複合的な取り組みを通じて、「保存、修理、公開」という一連のサイクルが永続する仕組みを作ります。
かつて政策が発端で散開してしまい
今また国が大きく関わる形で再開を果たす。
なんという運命なのでしょう!!
と仏像ファンの私は思うのです。
そう思い会場に目を向けると、観音さまと三輪山との景色に深い意味を感じます。
実は、展示として斬新なためかネット上では一部 疑問の声も見かけました。
でも私個人はこの景色に会えて本当に嬉しかった、感動しました。
この歴史的瞬間をたくさんの方に見て頂きたいと思います。
会場を出て
グッズ・御朱印
さて会場を出ますとそこは公式グッズ売り場。
展覧会の限定グッズや図録のみならず、聖林寺オリジナルグッズや地元奈良から選りすぐりの雑貨や特産品などなど…
限りない仏欲(物欲)と限りある予算の狭間で逡巡する事になります。どうぞお楽しみください。
私はマスクケースにしました。観音さまのシルエットがおしゃれ、抗菌効果のある漆喰加工のすぐれものです。
特筆すべきは展覧会のために作られた限定御朱印。
見開きで、左側に「十一面観音」の文字。
右側には上品な紫色の紙に、キラリと光る金箔の線で美しい文様が描かれます。
これは観音像の光背(仏像の背後に飾られる板。仏像の光輝く様を表現したもの)を象っています。めちゃめちゃ素敵です。
そしてそしてレジで購入すると
なんとレジ横に聖林寺のご住職がいらして日付を入れて頂けるという嬉しすぎる計らい!
奈良まで行かなくても観音さまとご縁を結べますね。
立ち寄りたい本館11室
さてグッズもゲットし出口へ向かうと、左側に
「11室」という部屋があります。
ここは日本美術の彫刻、つまり仏像の展示室です。東博が所蔵・保管している全国の仏像を鑑賞できます。
聖林寺展のチケットで入れますのでとってもお得、コンパクトなお部屋でささっと見られます。
ぜひ立ち寄ってみて下さいね。
展覧会の概要
アクセス…暑さをどうするか
東京国立博物館へのアクセスは
JR 上野駅・鶯谷駅から徒歩10分
東京メトロ 上野駅から徒歩15分
京成電鉄 京成上野駅から徒歩15分
いずれも10分以上歩きます。
会期は2021年6/22~9/12の真夏ですから暑さをどうしのぐかがとても重要です。いくつかコツをご紹介します
昼近くなると混んできて入場行列ができるかも。空いていてゆったり楽しめますし早い時間が吉です。
・木陰を歩く
駅から博物館までは上野公園の中を歩くので木陰が多く比較的楽に歩けると思います。
・保冷剤などを持っていく
会場にはロッカーがあり日傘を預ける傘置き場も充実。荷物になるからと諦めず、必要なものは持ってゆきましょう。
チケットと公式Twitter
チケットは事前予約制(日時指定券)。
公式サイトによると当日券もあるようですが販売終了の可能性ありとの事で事前予約を推奨しています。
私は「美術館ナビ」というアプリで予約しました。
初めて使いましたがとても操作しやすく、日時の変更も簡単にできてありがたかったです。
前売日時指定券で一般1,400円。詳しくは公式サイトをご覧ください。
展覧会の公式Twitterでは混雑状況など最新情報を随時つぶやいておられます。
気になる方はぜひチェックを。
@shorinji2020
まとめ
いかがでしたでしょうか。
「行ってみよう!」と思って頂けたらとても嬉しいです。
仏像は一見難しそうですが、対面すればその素晴らしさは誰にでもわかります。お気軽にお出かけくださいね。
なお現在十一面観音のさまのお堂を改修
するためのクラウドファンディングが開かれています。
どうぞご覧ください。
https://readyfor.jp/projects/shorinji2021
最後までお読み下さりありがとうございました。
※参考リンク
聖林寺展公式 https://tsumugu.yomiuri.co.jp/shorinji2020/
聖林寺 http://www.shorinji-temple.jp/
大神神社 http://oomiwa.or.jp/
奈良県歴史文化資源データベース http://www.pref.nara.jp/miryoku/ikasu-nara/seishu/oomiwa/
紡ぐプロジェクト https://tsumugu.yomiuri.co.jp/
読売新聞 https://info.yomiuri.co.jp/social/tsumugu.html